2009年6月20日土曜日

医療従事者に読んでほしい一文

読売新聞』の医療欄に「わたしの医見」という読者からの投稿を紹介する場がある。そこに載っていた或る文章が気になったので、下記に全文を引用する。医療従事者にはぜひ読んでもらいたい。

 何も姉の前で……     
 神奈川県大和市  牛垣恵子 63

 姉が乳がんの手術を受けた翌年、再入院した時のことだ。亡くなる前日、若い看護師が「後ほど先生から話がある」と言ってきた。姉が目の前にいるにもかかわらず、同じ事を何回も言うので腹立たしかった。
 姉はてっきり自分も交えての話と思いこみ、具体が悪いのにパジャマを着替えて、来るはずのない医師を待った。やがて私が1人で医師の説明を受けたが、胸が張り裂けそうで、すぐに姉の所に戻れなかった。
 あれから9年たつが、「先生なかなか来ないね」と不安そうに待ちながら、診てもらえずに亡くなった姉の顔が思い出されて悲しい。

  出所=『読売新聞』夕刊(2版)、2009年6月18日、9面。

2009年6月18日木曜日

地下水への招待─日本地下水学会・井田徹治〔著〕『見えない巨大水脈 地下水の科学』

本書は、地下水についてさまざまな視点から書かれている本である。副題にもあるように、地下水は「使えばすぐには戻らない『意外な希少資源』」であることも、本書を読みすすめていけば納得できる。

地下水は現在、人為的な汚染や過剰なくみあげによって危機的な状態になっていることも、本書から教えられた。日本でも、地下水の過剰なくみあげが原因の地盤沈下など、被害が続いており、汚染されている地下水も少なくない。

本書では、民法で保障された土地所有権に基づいて、私有地の地下にある地下水を土地所有者のものだとする「私水説」に対して、「地下水は河川の水と同様に流動しているのだから、その恩恵は土地の所有者だけではなく、関連するすべての人が享受すべきだ、との主張」である「公水説」を紹介しており(p.236.)、さらに、欧米で有力になりつつある「地下水を社会の『コモンズ(共有財産)』として扱おうという議論」(p.236.)も紹介し、日本における「地下水」観のさらなる発展をうながしている。法律学研究者らによる「公水説」の意味づけが急がれる。

「一般の方々に地下水について興味や関心を持っていただき、きれいな地下水をいつまでも保ち続けていけるようにとの願いのもと活動をして」いる日本地下水学会市民コミュニケーション委員会ウェブサイトについても紹介されている(p.245.)。本とサイトが連動している点も、本書の特徴のひとつであろう。

索引と参考文献欄も完備しており、また、付録として「名水百選ガイド」(pp.246-261.)が附されている。

日本地下水学会・井田徹治〔著〕見えない巨大水脈 地下水の科学─使えばすぐには戻らない「意外な希少資源」〔『ブルーバックス』B-1639〕、講談社、2009年5月20日、267, iiip.)

2009年6月16日火曜日

梅雨

関東地方も梅雨入りしたとのこと、今夜は東京も雨が降っている。

このごろあまり「入梅」(にゅうばい)ということばを聞かなくなったような気がする。雨の日が比較的多いといったことのほかに、梅雨らしさもあまり感じなくなってしまった。子供のころに感じていた梅雨らしい梅雨がなくなってしまったように思える。それは、自分の年齢のせいなのか、それとも、本当に梅雨らしい梅雨そのものが都会からなくなってしまったからなのだろうか。

梅雨明けにはまた酷暑が待っているのだろうか。なんとなく思い遣られる。

2009年6月4日木曜日

イスラームの実像に近づくために─小杉泰〔著〕『イスラーム帝国のジハード』

研究者が一般読者向けにわかりやすく書いた本というものは、案外その数が多くない。だから、こうした本に出会うと、内容以前に著者のなみなみならぬ力量と学問を社会の共有財産にしようとする姿勢に感動してしまう。


イスラームとはなにかを理解させてくれる本書は、『興亡の世界史 What is Human History』という叢書の第6巻。著者の小杉泰教授京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科は、イスラーム学・中東地域研究・比較政治学・国際政治学を専攻する研究者である。


日本にも根強い「右手に剣、左手にコーラン」といった誤ったイメージ、さらにはイスラームを短絡的にテロリズムとむすびつけてしまう誤解や無知を一掃することが、いまほど求められている時期はない。本書は2006年の発行だが、その意義を失うどころか、ますます価値のある本になっている。


本書の標題にも含まれている「ジハード」という語も、日本では独善的な聖戦やテロといったイメージと関連づけられている風潮があるが、本書によれば、「ジハードを分類すれば、心の悪と戦う『内面のジハード』、社会的な善行を行い、公正の樹立のために努力する『社会的ジハード』、そして『剣のジハード』に区分することができる」と述べp.73.、「ジハード」がイスラームの好戦性をあらわすものでは決してなく、豊かな内容をもったイスラーム理解のキーワードであることをさまざまな視点から論じている。


中東地域の歴史を叙述しつつイスラームの実像を描いた本書が、世界史だけではなく、現代の政治・経済・社会を考えようとする人にとって、有益で意味のある一冊であることはまちがいない。「索引」「主要人物略伝」「年表」「参考文献」が附されている点も、本書の価値を高めている。


小杉泰〔著〕イスラーム帝国のジハード〔『興亡の世界史 What is Human History?』〕、講談社、2006年11月17日、382p.)

2009年6月3日水曜日

大学は更正施設ではない

京都教育大学の学生らが集団準強姦容疑で逮捕された事件で、同大学の寺田光世学長が、逮捕者への処分に関して「甘いと言われるかもしれないが、教育大学である以上、加害者も更生させて社会に送り出すことが責務だ」と述べたとのことである(下記引用記事)

この発言が事実ならば、寺田学長の認識は基本的にまちがっている。逮捕者に対する停学という処分が甘いか甘くないかは、この際どうでもいい。問題なのは、寺田学長の大学観である。大学は、教員養成系の大学であろうがなかろうが、更正施設では決してない。大学が「加害者も更正させて社会に送り出すことが責務だ」と思っているならば、おぞましいまでの思い上がりである。

「卑劣極まりない行為」=集団暴行事件で学生説明会-京都教育大」(時事ドットコム

 京都教育大の男子学生6人が女子学生を暴行したとして集団準強姦(ごうかん)容疑で逮捕された事件で、同大は3日、学生に対する説明会を開いた。寺田光世学長は「人権を踏みにじる卑劣極まりない行為。人権に対する意識を高め、行動に反映してほしい」と呼び掛けた。
 説明会は大教室で行われ、約450席は参加した学生でほぼ満員となった。6人を退学ではなく停学処分にした理由について、寺田学長は「甘いと言われるかもしれないが、教育大学である以上、加害者も更生させて社会に送り出すことが責務だ」と説明した。(2009/06/03-19:58)

事件の概要については、下記の『毎日新聞』電子版の引用記事参照。

集団準強姦:容疑で京都教育大生ら逮捕 コンパで女性に性的暴行--府警」(毎日jp

 酒に酔った女性に今年2月、集団で性的暴行を加えたとして、京都府警捜査1課と五条署は1日、京都教育大の男子学生6人を集団準強姦(ごうかん)容疑で逮捕した。
 逮捕されたのは、磯谷昇太(22)▽竹田悟史(25)▽上田拓(22)▽小畑弘道(22)=以上当時4年▽原田淳平(21)▽田中康雄(21)=同3年=の計6容疑者。竹田容疑者は容疑を認めているが、ほかの5人は「合意の上」「女性は酩酊(めいてい)状態ではなかった」などと否認しているという。
 逮捕容疑は、6人は2月下旬、京都市内の居酒屋で、酒に酔い正常な判断ができない状態の女子大学生(当時19歳)を店内の空き部屋に連れ込み、集団で性的暴行を加えたとされる。
 捜査関係者によると6人は京都教育大の体育会系クラブの部員らを含め約100人が参加したコンパで飲酒していたという。3月に女子大学生の母親が相談して発覚した。京都教育大学生課は「事実関係を含めて確認中でコメントできない」としているが、容疑者の一部は既に大学から停学などの処分を受けているという。【古屋敷尚子、成田有佳】
(毎日新聞 2009年6月1日 大阪夕刊)

この事件に関連して、前回のエントリーで言ったことをもう一度いう。大学生が飲酒をするというのは、根本的におかしいことなのだ。

2009年6月1日月曜日

大学生・大学院生は決して酒を飲むな!

泥酔した高千穂大学の学生が殺人未遂容疑の現行犯で逮捕された。状況は、下記に引用するニュース記事に記されているが、もういい加減、未成年の大学生は当然のこと、たとえ20歳を超えていたとしても大学生、さらには大学院生が酒を飲むことに対して、社会は厳しいまなざしを向けるようにするべきだ。

そのことによって、酒造業や飲食業の大半が合併や廃業・転業を余儀なくされるという代償を払っても、社会のありかたとして、大学生・大学院生は飲酒をしてはならない、という文化をこの国に根づかせなければならないと思う。ゼミのコンパといった学生文化も消滅していい。アルコールが入らないと本音で議論ができない、などという反論もあるだろうが、アルコールが入ってはじめて議論できるような議論は、議論として意味がない。そういった反論をささえている飲酒に寛容な文化が、まっとうな議論や討議をおこなう公共的な空間を成立させる障礙になっているのだ。

現在の大学が抱えている深刻な危機の要因は、学生や院生の飲酒に寛容である(さらに言えば、頭脳労働者である教員の飲酒に対しても寛容である)文化にもその一端がある。大学生や大学院生が酒を飲むのは(さらに大学教員が酒を飲むのは)根本的におかしいのだ、という考え方が、あたりまえの常識になって欲しい。

大学生「朝まで8時間飲んだ」=駅ホームの殺人未遂容疑・警視庁」(時事ドットコム

 東京都杉並区の京王井の頭線永福町駅ホームで先月31日、同区の主婦(59)が腕を引っ張られ、発車直前の電車の前に落ちた事件で、殺人未遂容疑の現行犯で逮捕された高千穂大学3年川満康成容疑者(20)が警視庁高井戸署の調べに「午前0時から8時ごろまで、缶でビールや発泡酒を飲んだ」と供述していることが1日、分かった。
 同署によると、同容疑者は31日午前0時ごろから、渋谷区内の路上で、友人3人とともに、1人で缶のビールや発泡酒を2、3本飲み、同4時ごろに同区内の友人宅へ移動。同様に5本から7本程度飲んだという。
 同8時ごろ、友人と別れ、渋谷駅から1人で電車に乗ったという。
 事件後、酒気帯び運転となる呼気1リットル当たり0.15ミリグラムを上回る同0.2ミリグラムのアルコールが検出された。
 同容疑者は「人にぶつかって線路に落ちた記憶がある」とした上で、「そういうことをしたのであれば、申し訳ない」と話しているという。(2009/06/01-13:40)


飛び降り学生「8時間飲んだ」 東京・杉並」(47NEWS

 東京都杉並区の京王井の頭線永福町駅で、女性をつかみ一緒に線路に飛び降りたとして殺人未遂容疑で逮捕された高千穂大3年、川満康成容疑者(20)が「約8時間にわたり缶ビールや発泡酒を計約10本飲んだ」と供述していることが1日、警視庁高井戸署への取材で分かった。
 高井戸署によると、川満容疑者は「31日午前0時ごろから渋谷区の路上で友人ら計3人で缶ビールや発泡酒を2、3本飲酒。その後、別の友人宅で午前8時ごろまで缶ビールを約6本飲んだ」と説明。「駅のホームで人にぶつかった記憶はある」とも供述している。
 高千穂大(杉並区)の成田博学長は1日、記者会見し「被害者に衷心よりおわびする。公共の場での事件で社会に与えた影響は大きく、事件は痛恨の極みだ」と謝罪。
 大学によると、川満容疑者は経営学部経営学科でマーケティングに関するゼミに所属。出席状況も成績も良好だった。
 川満容疑者は5月31日午前4時ごろまで飲酒した後、同日午前9時半ごろ、永福町駅ホームで近所の女性(59)の腕をつかんで線路に飛び降りたとして逮捕された。
2009/06/01 13:42 【共同通信】

2009年5月31日日曜日

五月も終わり - First of May by The Bee Gees

5月も間もなく終わり。今日の東京は雨が降ったり止んだりで、もう梅雨入りしたかのような空模様だった。

5月といえば、きまってビージーズ(The Bee Gees)のヒット曲"First of May"を思い出す。YouTubeにもこの曲がアップロードされている。