2009年5月12日火曜日

『アンカーコズミカ英和辞典』に惜しくも抜けている語

先週購入した『アンカーコズミカ英和辞典学習研究社、2008年1月)は、予想通りのなかなか読み応えのある辞典であり、気に入っている。山岸勝榮編集主幹が書いた同辞典のまえがき「英語の世界が真にわかる辞典をめざして」(pp.3-5.)では、この辞典が目指しているところが表明されており、とくに下記に引用する一文(p.3.)では下線が引かれ(引用にあたっては下線を取り除いてある)強調されている。

…… 英語と表裏一体を成す文化,具体的には,キリスト教(やユダヤ教)を背景として成った文化との"不可分性"を追求し,両者の関係を解明した結果としての有益情報を,英語文化をよく表す重要語(とりわけ「英語文化のキーワード」欄に挙げた語)の訳語や語義解説に適切に反映した。

この一文のいう通りに、『アンカーコズミカ』ではキリスト教などを背景とした英語圏文化に対する目配りが各所にみられる。ただし、あれこれと語をひいてみて気になったことが一つある。キリスト教の文化にとって重要であるはずの"INRI"ということばがこの辞典には載っていないのである。

国廣哲彌ほか編『プログレッシブ英和中辞典』第4版小学館、2003年1月)には載っている。"INRI"の語義は、「《ラテン語》 Iesus Nazarenus, Rex Indaeorum ユダヤ人の王、ナザレのイエス」となっている(p.1001.)。この"INRI"とは、イエスが磔刑にされたとき、十字架の上に掲げられた罪状書きである。イエスのはりつけを題材にした多くの絵画や彫刻などには、この罪状の頭文字である"INRI"の文字を記した銘板や札を見ることができる。

そうした絵画や彫刻といった作品を見たとき、「この"INRI"という文字は何だろう?」という疑問を抱き、『アンカーコズミカ英和辞典』にあたったとき、 その語がみあたらないのでは、キリスト教を背景とする文化に配慮したという辞典としては、大きな問題点ではないだろうか。

上に引いたような趣旨を掲げた上級者向けの英和辞典としては、"INRI"の語が抜け落ちているのは、なんとも惜しまれることである。

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